にほんいちの特別急行電車! - 愛電の熱田豊橋間

1927年5月27日の名古屋新聞にこんな記事がのっとった。

1日から直通する愛電の熱田豊橋間
省線の特急よりもはやいにほんいちの特別急行電車

  • 愛知電鉄豊橋線の複線工事がいよいよ竣成(しゅんせい)したで、1927年6月ついたちから全通して、これまでの小坂井のりかえの面倒がなくなり、さらに運転の大改革をやって名古屋(神宮前)と豊橋(吉田)を30分ごとに発車して、1日31往復の特別急行、急行、ふつうの3種運転をやることになった。しかも急行本位であさの8時からゆうの6時まで両地を1時間ごとに発車して全線を1時間12分ではしる。
  • 省線のふつう列車は熱田豊橋間に1時間50分以上かかるで、38分はやくて汽車よりも運転の回数がおおいで、名古屋、岡崎、豊橋間を交通する旅客にとっては非常の便利である。ことに熱田からのぼりの長距離列車にのりおくれた東京、静岡、浜松方面への旅客でもすぐに神宮前へかけつけて愛電にのれば豊橋までには汽車より先着してのりこむことができるところなど、にほんにはほかにみれん高速電車で、省線ものろのろはしっちゃおれんよのなかになった。
  • 愛電といえば弘法(こうぼう)めぐりや知多西岸の海水浴とばかりおもっとったのはむかしのゆめ。いまではにほんいちの大私設鉄道になって、これまでにほんいちをほこっとった関西の阪急や南海の急行電車をおいこしてしまった。
  • ほうして、1927年6月ついたちから実行する特別急行電車は、熱田豊橋間を1時間3分で突破するから、名古屋豊橋間を1時間10分ではしる省線の最優秀列車のぼりくだりの特急よりも速力がはやいで、にほんの鉄道界にニューレコードをつくったわけである。
    愛電 - 特別急行電車(名古屋新聞 - 1927.5.27)
    • この特急は毎日正午12時に神宮前を発車して当分1日1往復するけど、とちゅう停車駅は岡崎だけで、名古屋岡崎間は34分、岡崎豊橋間は29分でひといきにとぶ愛電豊橋線の直通は、こうして名古屋と岡崎豊橋とのきょりを時間的に短縮して、文化と産業のうえに多大なる貢献をする。
    • さいきんの調査によると、名古屋豊橋間を往来するひとは1か年25万人をくだらん。こいだけのひとが汽車で交通した自分と急行電車で往復するときとを比較すれば、ひとりで30分以上の時間を節約することができて、25万人の利益する時間は12万5千時間っていうおおきなものになる。この時間が有益につかわれるとすれば、おおいなる国家の利益である。
    • まけんきで積極的にしごとをする藍川社長の刻苦(こっく)10年の苦心はむくいられて、ついに愛電をにほんいちにおしあげてしまった。
  • のりごこちのいいスチールカーのやわらかいクッションにもたれて旧東海道のけしきをながめつつ、3等汽車とおんなじ料金でしかも汽車よりはやくはしる電車が名古屋豊橋間を直通運転するのはいよいよ1927年6月ついたちから。

(名古屋新聞 1927年5月27日)

うん、なかなかおもしろい記事だけど、ちょっと説明をつけくわえる。

愛電ってのは愛知電鉄のことで、名鉄の前身のひとつだ。神宮前(じんぐうまえ)をターミナルとして、ほっから東南に路線をのばしとった。豊橋線ってのはいまの名古屋本線の神宮前から豊橋までのことで、1927年6月ついたちに伊奈(いな)から当時は吉田っていった豊橋までが開通して、全線開通となった。

省線ってのはのちの国鉄のことだ。鉄道省がやっとったで省線っていっとった。愛知電鉄の神宮前のとなりに省線の熱田がある。

記事を要約するとこうなる。

1927年6月ついたちの愛知電鉄豊橋線の全線開通で、特急、急行、ふつうのみっつの列車種別で、神宮前と吉田を30分ごとに発車して、1日31往復の電車を運行する。

急行は1時間に1本の運行で、神宮前から吉田までを1時間12分でむすぶ。これは省線のふつう列車が熱田から豊橋まで1時間50分以上かかるのにくらべて38分もみじかい時間ですむ。熱田から東京方面にむかう省線の汽車にのりおくれても、愛知電鉄にのやあ豊橋にさきまわりできる。

特急は1日に1本の運行で、神宮前から吉田までを1時間3分でむすぶ。省線の最優秀列車が熱田から豊橋まで1時間10分で走破するだけど、ほれよりもはやい。

これまでにほんいちをほこっとった阪急や南海をおいこして、いまや愛知電鉄がにほんいちの私鉄になっただ。

神宮前から豊橋までの62.2キロを1時間3分ではしったっていうと、表定速度は59.2キロになり、いまでもじゅうぶんにはやいスピードだ。ときはかねなり。いまから87年もまえにこんな弾丸特急をはしらせた愛知電鉄はえらい。

ちなみに、いま名鉄快速特急はこの区間を所要時間43分、表定速度86.8キロではしっとって、正常進化をはたしとるっていえる。

にほんいちの特別急行電車!(名古屋新聞 - 1927.5.27)
にほんいちの特別急行電車!(名古屋新聞 - 1927.5.27)